大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(わ)1897号 判決

被告人氏名 A

年齢 昭和××年×月×日生

本籍 《省略》

住居 《省略》

職業 無職

被告人氏名 B

年齢 昭和××年×月××日生

本籍 《省略》

住居 《省略》

職業 スナック経営

検察官 久郷修司

弁護人 岡田忠典(被告人両名)

主文

一  被告人両名をいずれも懲役一〇か月に処する。

二  被告人両名に対し、この裁判の確定した日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人両名は、いわゆる「ダイヤルQ2」の電話回線を使用し、録音再生機と電話機とを連動させる方法により、電話をかけてきた不特定多数の聴取者にわいせつな音声を再生して聴取させることを共謀した。これに基づき、被告人両名が、それぞれ新聞や雑誌などに、電話番号○○○○(××)××××の外「一八歳未満だめ、セクシーギャル、提供/ピンクレディー」などという内容の広告を掲載すると共に、被告人Aが、平成二年一一月二八日ころから平成三年五月二七日までの間、岐阜県岐阜市尼ケ崎《番地省略》甲野マンション一A号において、性交時における女性の感情やせりふを露骨に表現したわいせつな音声を録音したカセットテープの内容を記憶させた録音再生機(商品名をタカコムサービスホンTS―U33といい、一録音内容につき一五回線接続しており、電話番号○○○○―××××××をかけることによって録音内容を聴取できるようになっていたもの)を設置した。このようにして、電話をかけてきたCら不特定多数の者に、録音内容を再生して聴取させ、わいせつ物を公然陳列した。

(証拠)《省略》

(争点に対する判断)

本件の争点は、被告人両名がわいせつ物を公然陳列したといえるかどうかという点にある。

わいせつな音声を録音したものは刑法一七五条の文書、図画以外のわいせつな物に該当すると解される(本件録音再生機に記憶させた音声の内容がわいせつであることについては弁護人も争っていない。)。そこで、わいせつな音声を記憶させた本件録音再生機が公然陳列されたか否かについて検討する(なお、本件では、カセットテープの音声を録音再生機にデジタル信号として一旦記憶させ、その後、電話をかけてきた聴取者に、再生した音声を電話回線を通じて聞かせていたのであって、カセットテープそのものをその都度再生させて聞かせていたのではない。従って、公然陳列したか否かが問題となるのは、カセットテープそのものではなく、一旦デジタル信号としてわいせつな音声を記憶させた録音再生機である。)。

刑法一七五条にいう公然陳列とは、わいせつな物を不特定または多数の人が観覧できるような状態に置くことであるが、わいせつな音声を録音したものを陳列する場合とは、通常、その録音内容を不特定または多数の人が聴取できるような状態にすることと解するのが相当である。

ところで、本件では、わいせつな音声を記憶させた録音再生機を岐阜市内のアパートの一室に設置していたのであるが、遠隔地にいる聴取者は、所定の電話番号のところに電話をかけることによって、再生機を作動させ、電話回線を通じてその録音内容を聞くことができた。しかも、本件録音再生機は最高一五人が同時に同じ録音内容を聞けるしくみになっていたうえ、平成二年一一月二八日ころから翌三年五月二七日までの間、常に電話をかけて録音内容を聞ける状態にあった。なお、被告人両名は、新聞や雑誌などで本件テレホンサービスを広告していたため、実際にも、多数の聴取者が本件テレホンサービスを利用し、録音再生機に記憶された録音内容を聞いていたことが認められる。このように、誰でも、いつでも、どこからでも、所定の電話番号のところに電話をかけることによって、本件録音再生機に記憶された録音内容を聞くことができる状態にしたのであるから、不特定、多数の人に本件録音内容を聴取できる状態にしたというべきである。

従って、被告人両名は、わいせつな物を公然陳列したと認められる。

(法令の適用)

一  被告人A

罰条 刑法六〇条、一七五条前段

刑種の選択 懲役刑

執行猶予 刑法二五条一項

二  被告人B

罰条 刑法六〇条、一七五条前段

刑種の選択 懲役刑

執行猶予 刑法二五条一項

(求刑 いずれも懲役一〇か月)

(裁判官 山田陽三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例